大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 平成12年(ネ)5号 判決

主文

一  原判決中、被控訴人に関する部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文と同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、控訴人が自動車運転中に惹起した交通事故によって、同車に同乗していた三宅誠二(以下「訴外誠二」という)が死亡したため、訴外誠二の両親である原審相原告三宅雄助及び同三宅とく(以下「原審相原告雄助及び同とく」という)が、訴外誠二の死亡により生じた葬儀費用、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用等の損害の賠償及びこれらに対する遅延損害金の支払いを求め、また、訴外誠二の婚約者として被控訴人が固有の慰謝料及び遅延損害金の支払いを求めてそれぞれ提訴したところ、原審が、原審相原告雄助及び同とくの請求につき、各金二七九万三七八五円及び事故発生日である平成九年七月二〇日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、また、被控訴人の請求につき、慰謝料等として金一七六万円及び右同様の遅延損害金の支払いを求める限度で、それぞれその請求を認容する判決をしたので、控訴人が、原判決中被控訴人に関する部分についてのみ控訴した事案であり、本件の主たる争点は、被控訴人に固有の慰謝料請求権が認められるか否かである。

二  本件における「争いのない事実」は、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」中の「一 争いのない事実」と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決五頁三行目から同末行までを削る)。

三  争点に関する当事者の主張

1  被控訴人の主張

被控訴人は、訴外誠二と、平成六年八月から二年来の交際を経て、平成八年八月には婚約をし、平成一〇年春に結婚式を挙げる予定の仲であり、訴外誠二の死亡により被控訴人が被った精神的苦痛は甚大である。したがって、被控訴人は、民法七〇九条、七一〇条により固有の慰謝料請求権が認められてしかるべきものである。また、仮に、被控訴人の慰謝料請求が認められないとすると原審相原告雄助及び同とく、並びに被控訴人ら被害者側の慰謝料のトータル額が低額に失して極めて不当な結果となる。

2  控訴人の主張

被控訴人は、控訴人の不法行為に基づく訴外誠二の死亡につき、固有の慰謝料を請求することはできない。被害者本人以外で固有の慰謝料を請求できる者は、民法七一一条所定の者のほか、これらの者と実質的に同視し得べき身分関係を有する者に限られると解すべきであり、被害者の婚約者である被控訴人を被害者の父母や配偶者、子と実質的に同視することはできない。

第三当裁判所の判断

一  被控訴人は、控訴人の不法行為により死亡した訴外誠二の婚約者であるとして、控訴人に対し直接に固有の慰謝料請求するものであるが、控訴人は、被害者の婚約者にすぎない被控訴人には固有の慰謝料請求権は認められないとして、被控訴人の主張を争うので判断する。

一般に、不法行為により生命を侵害された者がある場合に、被害者の父母、配偶者及び子が加害者に対し、直接に固有の慰謝料を請求できることは民法七一一条の明文上明らかであるが、右に該当しない者であっても、これらの者と実質的に同視できるような身分関係にあり、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けたと認められる者については、同条の類推適用により加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求することができるものと解すべきである(最高裁判所昭和四九年(オ)第二一二号、同年一二月一七日第三小法廷判決・民集二八巻一〇号二〇四〇頁参照)。そこで、この点を本件について検討してみると、甲七(被控訴人の陳述書)及び当審における被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は、平成六年八月から訴外誠二と交際を始め、平成八年八月ころには指輪を貰って将来結婚することを約束し、それ以後家族ぐるみの交際を続けるようになり、本件事故後である平成九年秋には結納を行い、翌平成一〇年春ころには挙式する予定であったというのである。そして、右によれば、被控訴人と訴外誠二とが将来結婚することを約束し、互いの家族とも親交のあったことが窺われるところではあるが、一方、被控訴人の供述によっても明らかなように、被控訴人と訴外誠二とは未だ結納も取り交わしておらず、挙式の日取りも決まっていなかったものであって、二人の関係は婚約を破棄すれば損害賠償義務が生じるような、社会的に広く認知された法的拘束力を伴う緊密な身分関係にあったものとまでは認め難く、将来このまま良好な関係が続けば約束どおり結婚するというような拘束力の緩やかな関係にとどまっているものとみるのが相当である。さらに、被控訴人と訴外誠二との関係を具体的に検討してみても、訴外誠二と控訴人とは同じ高校の同学年の友人であって、事故の半年前余りは親しく交遊する飲み友達であったのに(乙二、三及び七)、被控訴人は当審において、控訴人とは一度くらいしか会ったことがないと供述するなど、被控訴人の訴外誠二の交友関係等の把握に不十分な点があること、また、被控訴人は本件事故当日、訴外誠二と海に行く約束をしていた旨当審において供述しているが、訴外誠二は前夜から実弟三宅昇、高校時代の友人である高橋辰彦及び控訴人らと翌早暁まで飲酒したうえ、引き続きさらに飲酒する目的で控訴人宅に車で赴く途中本件事故に遭遇したものであることが認められ(乙二、三及び七)、被控訴人の供述するところと事故前日から当日にかけての訴外誠二の行動とは符合しておらず、両者の間の意思疎通が円滑になされていなかった気配も窺われ、これらの点に照らせば、被控訴人と訴外誠二が果たして被控訴人の主張するような親密な関係にあったのか疑問の余地なしとしない。

したがって、被控訴人と訴外誠二が婚約中であり、訴外誠二の死亡により被控訴人が少なからず精神的苦痛を受けたのが事実であるとしても、被控訴人が訴外誠二の父母、配偶者及び子らと実質的に同視できるような緊密な身分関係にあったものと認めることはできず、被控訴人が控訴人に対し、民法七一一条を類推適用して直接固有の慰謝料請求をすることはできないと解すべきである。

なお、被控訴人は、本件請求は、民法七〇九条及び七一〇条に基づき、控訴人の不法行為によって被った精神的苦痛に対する固有の慰謝料を請求するものであると主張するが、死者の近親者及びこれに類する者は同法七〇九条、七一〇条に依拠することなく、その特別規定ともいうべき同法七一一条の適用ないし類推適用により慰謝料請求をすべきものであると解されるから、前判示のとおり、被控訴人が同法七一一条の近親者及びこれに類する者であると認めることができないとされる以上は、同法七〇九条及び七一〇条に基づき固有の慰謝料請求をすることは許されないというべきである。したがって、この点に関する被控訴人の主張は採用できない。

二  また、被控訴人は、仮に、被控訴人の慰謝料請求が認められないとすると原審相原告雄助及び同とく、並びに被控訴人ら被害者側の取得する慰謝料の総額が低額となり過ぎて極めて不当な結果となる旨主張するが、原審相原告雄助及び同とく、並びに被控訴人らの損害賠償請求はそれぞれ個別の権利を行使するものであるから、被控訴人の慰謝料請求を認めるかどうかの判断について、原審相原告雄助らいわゆる被害者側の取得する損害額の総額如何を考慮に入れる余地はないものというべきであり、被控訴人のこの点に関する主張も採用できない。

三  以上によれば、被控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がなく、右と異なる原判決は相当ではないから、これを取り消したうえ、被控訴人の請求を棄却することとする。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 喜多村治雄 裁判官 小林崇 裁判官 片瀬敏寿)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!